犬のワクチン(予防接種)の種類・費用・時期を獣医師が一覧で解説 【中編】
2026-04-25
目次
1. 日本で入手できる犬のワクチン一覧
◆ コアワクチン(全ての犬に必要)
◆ ノンコアワクチン(生活環境により必要性が変わる)
2. 犬のワクチン構成の例〜費用の目安と、知っておきたい“種類ごとの選び方”〜
◆ 5種混合ワクチン
◆ 7種混合ワクチン
◆ 10種混合ワクチン
◆ 製品の入手性について
3. 犬のワクチンはいつ接種する?
◆ 子犬の混合ワクチンプログラム:最終接種は “16週齢以降” が必須
◆ 成犬の場合:1歳時のブースターが免疫の“土台”を決める
◆ 全体として大切なのは「子犬期の確実な基礎免疫」と「法的義務の遵守」
1. 日本で入手できる犬のワクチン一覧
日本で選べる犬のワクチンは、世界的に見ても種類が多いわけではありません。
そのため、“必要な成分だけを個別に選ぶ” という海外のやり方は日本では難しく、
実際には 5種・7種・10種などの混合ワクチンを中心に選択するのが一般的 です。
ここでは、国内で実際に入手できるワクチンを、“何が予防できるのか” という視点で整理して紹介します。
◆ コアワクチン(全ての犬に必要)
対象:ジステンパー(CDV)・パルボ(CPV)・アデノウイルス(CAV)
これら3つは、犬の命に関わる最も重要な感染症で、すべての犬が生涯にわたり免疫を維持すべき“必須ワクチン” です。
日本では、コアだけの「3種単剤ワクチン」はごく限定的で、
実際には 5種以上の混合ワクチンの中にコアが含まれている形になります。
国内で流通する主なブランド
- バンガード® シリーズ(ゾエティス)
- ノビバック® シリーズ(MSD)
- キャナイン® シリーズ(共立製薬)
いずれも生ワクチンで、しっかりとした長期免疫を作ることができます。
◆ ノンコアワクチン(生活環境により必要性が変わる)
①犬パラインフルエンザ(CPiV)
ドッグラン、サロン、ペットホテルなど、
“犬が集まる場所でうつりやすい” 呼吸器系ウイルスです。
しかし、日本にはパラインフルエンザの「単独ワクチン」が存在しません。
このため、CPiVをカバーしたい場合は、
必ず混合ワクチン(5種以上) を選びます。
②レプトスピラ(複数血清型)
河川敷、農地、野生動物が多い地域などで感染リスクが高い細菌感染症。
国内には、血清型が 2種類・3種類・4種類 カバーされた製品があります。
例)
- バンガード®7/10(ゾエティス)
- ノビバック® DHPPI+L(MSD)
- キャナイン®7種・10種
加えて、国内にはレプトスピラ4種単独ワクチン「バンガード®L4」 も存在し、
混合ワクチンと組み合わせて使用することも可能です。
レプトスピラは、免疫の持続が短く、毎年接種が必須とされています。
③犬コロナウイルス(CCoV)
→ WSAVAは“非推奨”
腸管型のウイルスで、軽度の消化器症状を起こすことがありますが、
重症化は非常にまれで、臨床的な意義は高くありません。
このため、WSAVAガイドラインでは非推奨 と明記されています。
【⚠️日本の事情🇯🇵】
日本では、7種や10種といった“レプトスピラ多価ワクチン”を選ぶと、
製品仕様の都合で犬コロナウイルスが同梱されてしまう製剤が存在します。
したがって、「10種を使う病院=犬コロナを推奨している」という解釈は誤りであり、
レプトスピラの予防範囲を広げたい事情が優先されているケースが大半です。
製品ラインナップの制約により、“結果として入ってしまう” というだけなのです。
④犬インフルエンザ(H3N2/H3N8)
→ 日本では接種不可
北米では流通していますが、日本国内に製品はなく、接種そのものができません。
海外渡航など特殊な事情がなければ、考慮する必要はありません。
2. 犬のワクチン構成の例
〜費用の目安と、知っておきたい“種類ごとの選び方”〜
犬の混合ワクチンは、「何種を選ぶか」によって費用が変わります。
ここでは、国内で広く使われている 5種・7種・10種 のおおよその相場をまとめ、
あわせて“なぜ病院によって扱う種類が違うのか”という、
飼い主さまがよく疑問に感じる点についても説明します。
◆ 5種混合ワクチン
(コア3 種+パラインフルエンザ)
5,000〜8,000円
都市部の一般家庭犬で最も選ばれることが多いタイプです。
コア疾患に加え、咳・鼻水などを起こすパラインフルエンザをカバーします。
◆ 7種混合ワクチン
(5種+レプトスピラ 2種)
7,000〜10,000円
川辺の散歩、野生動物が多い地域、アウトドアが好きな家庭など、
レプトスピラの感染リスクが懸念される場合に選ばれます。
◆ 10種混合ワクチン
(7種+追加のレプトスピラ血清型)
10,000〜13,000円
より多くのレプトスピラ血清型をカバーする構成です。
地域の流行状況や生活環境によっては、このタイプを推奨するケースもあります。
◆ 製品の入手性について
病院によって扱っているワクチンの種類が少しずつ違うことがあります。
これは品質や優劣の問題ではなく、
使用期限のある医薬品を安全に管理するため、需要の高い製品を中心に常備しているためです。
ワクチンは在庫を持ちすぎると廃棄ロスが発生するため、多くの動物病院では次のような運用をしています。
・使用頻度の高い「5種」や「7種」を中心に常備
・需要の少ないマイナー製品は、毎回取り寄せになることがある
・特注で取り寄せる場合、メーカー発注やロットの関係で費用が少し高くなる場合がある
こうした事情によって、病院ごとにラインナップが違うことがありますが、
どのワクチンがその子に最適かは、生活環境とリスクを考えながら決めれば十分です。
3. 犬のワクチンはいつ接種する?
〜混合ワクチンにおける子犬・成犬での違い、および
狂犬病ワクチン💉
のそれぞれの正しいタイミング〜
犬の混合ワクチン接種は、「いつ打つか」が非常に大切です。
特に子犬では、母犬から譲り受けた“移行抗体”がワクチン効果を妨げるため、
接種タイミングがずれると十分な免疫がつかないことがあります。
さらに日本では、混合ワクチンとは別に、
狂犬病ワクチンだけが法律で義務化されている ため、
これもスケジュールに組み込む必要があります。
ここでは、WSAVAの国際ガイドラインと国内法を踏まえて、
もっとも現実的で安全なスケジュールをまとめます。
◆ 子犬の混合ワクチンプログラム:最終接種は “16週齢以降” が必須
子犬は、移行抗体の影響によって早すぎるワクチンが効かないことがあります。
そのため、「最終接種を16週齢以降に行う」ことが最重要ポイントとされています。
標準プロトコル(最も確実)
- 6〜8週齢:1回目
- その後3〜4週ごとに追加接種
- 16週齢以降に最終接種
※高リスク環境では 20 週齢まで延長することもある
一般家庭向け・最小回数プロトコル
- 8週齢:1回目
- 12週齢:2回目
- 16週齢:3回目(最終)
一般家庭犬において、最小限かつ現実的な回数として広く使われています。
◆ 狂犬病ワクチンは「13〜17週齢で必ず1回」打つ必要がある(法的義務)
ここが混合ワクチンと大きく違う点です。
日本では、生後91日(=13週齢)を超えた犬は、
『所有してから30日以内に狂犬病ワクチンを1回接種しなければいけない』
ことが法律で定められています。
つまり、生後91日〜17週齢の間に必ず1回は狂犬病ワクチンを入れる必要があるのです。
これを最小回数プロトコル(8・12・16週齢)に組み込む場合は、
『12週齢の混合と16週齢の混合のあいだに狂犬病ワクチンを入れる必要がある』
という意味になります。
実務では次の流れが自然です:
- 12週齢:混合ワクチン
- 13〜15週齢:狂犬病(法律の義務を満たす)
- 16週齢:混合ワクチン(最終)
混合ワクチンと狂犬病ワクチンは同日接種も可能ですが、副反応を見分けやすくするために、1〜2週間ずらして接種する病院が多いのが実情です。
◆ 成犬の場合:1歳時のブースターが免疫の“土台”を決める
子犬期の予防接種が終わったら、必ず 1年後にブースターを1回行います。
これにより、コアワクチン(ジステンパー・アデノウイルス・パルボ)は、3年以上の免疫持続が期待できるとされています。
ただし後述のとおり、ノンコアであるパラインフルエンザやレプトスピラは年1回が必須 であるため、
“結果的に毎年の来院になる” 犬が少なくありません。
◆ 全体として大切なのは「子犬期の確実な基礎免疫」と「法的義務の遵守」
まとめると、
- 子犬の混合ワクチンの最終接種は必ず16週齢以降
- 混合ワクチン2回目(12週)と3回目(16週)の間に、狂犬病ワクチンを必ず1回入れる必要がある
- 1歳時のブースターが免疫の持続性を決める
というのが、科学的にも法律的にももっとも合理的な流れです。
接種時期の最適解は犬によって異なります。
そのため、医学的根拠と法律を踏まえながら、
その子にとってベストなスケジュールを、かかりつけ獣医師と一緒に組み立てていくことが最も大切なのです。